バイオマスプラスチックが進められる背景と今後の課題について解説
バイオマスプラスチック(biomass plastic)とは、木や草といった植物由来の原料を利用して作られたプラスチックのことです。具体的には、トウモロコシやサトウキビなどが原料として使われており、「バイオプラスチック」ともよばれます。
廃プラスチックは、海洋プラスチック問題や地球温暖化への影響など、さまざまな課題を抱えており、これらを解消できる可能性を秘めたバイオマスプラスチックに期待が集まっています。
本コラムでは、バイオマスプラスチックの種類や課題などについて、ご紹介いたします。
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バイオマスプラスチックとは
バイオマスプラスチック(biomass plastic)とは、木や草といった植物由来の原料を利用して作られたプラスチックのことです。具体的には、トウモロコシやサトウキビなどが原料として使われており、「バイオプラスチック」「植物樹脂」ともよばれます。
そもそも、バイオマス(biomass)とは、植物・動物などの生物に由来する再生可能な有機性資源を指す言葉です。「日本バイオプラスチック協会(JBPA)」の定義によれば、バイオマスプラスチックとは「原料として再生可能な有機資源由来の物質を含み、化学的又は生物学的に合成することにより得られる高分子材料」とされています。
バイオマスプラスチックの原料となる植物は、家畜用飼料などに使用される品種のトウモロコシだったり砂糖を作る際に副生する廃糖蜜だったりするため、人間の食料としては使えないものです。
バイオマスプラスチックは、100%バイオマスを原料とした「全面的バイオマス原料プラスチック」と、原料の一部にバイオマスを使用した「部分的バイオマス原料プラスチック」に分けられます。
なお、JBPAでは、バイオマス原料が25%以上の製品に対してロゴマークの表示を認めています。一方、一般社団法人 日本有機資源協会(JORA)では、バイオマス原料が10%以上の製品に対してロゴマークの表示を認めています。
バイオマスプラスチックの種類
前述のように、バイオマスプラスチックは「全面的バイオマス原料プラスチック」と「部分的バイオマス原料プラスチック」に2分できます。
また、バイオマスプラスチックには、生分解するものとしないものがあり、ここでもまた2分できます。
生分解性 |
など |
など |
---|---|---|
非生分解性 |
など |
など |
全面的バイオマス原料プラスチック |
部分的バイオマス原料プラスチック |
以下で上記の一部について、詳しくご紹介いたします。
ポリ乳酸(PLA)
ポリ乳酸(PLA)は、生分解性の全面的バイオマス原料プラスチックで、トウモロコシや芋、サトウキビ、ビートなどの農産物を原料とします。水分により加水分解を受けて低分子化し、微生物によって水と二酸化炭素に分解されます。分解、燃焼の際には二酸化炭素が発生します。
透明性が高く、剛性や引っ張り強度が高い点が長所ですが、耐熱性、耐衝撃性は低いのが短所です。
バイオポリブチレンサクシネート(バイオPBS)
バイオポリブチレンサクシネート(バイオPBS)は、生分解性の部分的バイオマス原料プラスチックです。
微生物によって水と二酸化炭素に自然に分解されます。
耐熱性が高く、繊維などとの相溶性も高い点が長所です。
バイオポリエチレン(バイオPE)
バイオポリエチレン(バイオPE)は、非生分解性の全面的バイオマス原料プラスチックです。バイオマスの原料はサトウキビ。
通常のポリエチレン(PE)と性能はほとんど変わりなく、通常のポリエチレン(PE)に比べて二酸化炭素の排出量を最大70%削減できるといわれています。
現在はレジ袋の素材として一般的です。
バイオポリエチレンテレフタレート(バイオPET)
バイオポリエチレンテレフタレート(バイオPET)は、非生分解性の部分的バイオマス原料プラスチックです。バイオマスの原料はサトウキビ。通常のポリエチレンテレフタレート(PET)と性能はほとんど変わりなく、自動車の内装表皮材としても使用されています。
バイオマスプラスチックが進められる背景
バイオマスプラスチックが世界で初めて作られたのは、1980年のことだといわれています。
それが、近年になってから急速に普及するようになった背景には、何があるのでしょうか?
プラスチックが環境に与える負荷
従来のプラスチックは石油由来の原料から作られています。
プラスチックは安価に製造できて、自由に着色ができ、疎水性で、安定性・耐久性が高く、薄いものから厚いものまでさまざまな形状のものが作れる自由度の高さなど、メリットが多い素材です。そのため、活用幅が広く、私たちの身の回りにプラスチック製品があふれているゆえんです。
しかし、長所である安定性の高さが短所ともなり、数百年から数千年は分解されないため、自然に還ることはないと考えて良いでしょう。
このため、ポイ捨てされたプラスチック製品、特にペットボトルやレジ袋といった重量の軽い容器類は、風に飛ばされるなどして海へ到達し、鳥や魚が誤って飲み込んで死んだり、体に巻き付いてしまい傷ついたりしています。
また、波や紫外線などにより徐々に破砕され細分化したり、もともと化粧品など向けに製造されたりした5mm以下のマイクロプラスチックを海洋生物が飲み込む被害も出ています。海洋に流入する海洋プラスチックの年間推定量は、ジェット機5万機分に相当するともいわれます。
バイオマスプラスチックのメリット
こうした廃プラスチックの課題を解消しつつ、これまでと同様、プラスチックの利便性を享受できると期待されているのがバイオマスプラスチックです。
従来のプラスチックは有限である石油原料を主成分とするため、いつかは原料が枯渇する恐れがありますが、バイオマスプラスチックの原料となる植物は、繰り返し栽培・収穫することができるため、非枯渇資源であるといえます。
また、植物を原料とするため、植物が育つ過程で光合成によりCO2を吸収することから、バイオマスプラスチックの製造過程で排出されるCO2が相殺される、カーボンニュートラルな素材であり、地球温暖化対策になると考えられます。
こういった点から、バイオマスプラスチックの製造や利活用はサステナブル※であるといえます。
また、環境省は令和1年(2019年)5月に、従来の「3R※」に加え「Renewable※」を基本原則とする「プラスチック資源循環戦略」を策定しました。この中に設けられた「バイオプラスチック導入ロードマップ」では、「2030年までにワンウェイプラスチックを累積25%排出抑制」など6つのマイルストーンが示されました。このうちの一つに「2030年までにバイオプラスチックを約200万トン導入する」というものがあり、政府もバイオプラスチック推進しています。
※サステナブル…人間の活動が自然環境へ悪影響を与えず、しかもその活動を維持できること。
※3R…Reduce(リデュース/減らす)・Reuse(リユース/繰り返し使う)・Recycle(リサイクル)の頭文字を取ったもの。
※Renewable…「再生可能な」という意味の英語。「プラスチック資源循環戦略」の中では、「再生可能資源への代替」を意味する。
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バイオマスプラスチックの今後の課題
従来の石油由来のプラスチックの代替品として期待が寄せられているバイオマスプラスチックですが、2022年1月現在、以下のような複数の課題を抱えており、今後の普及拡大や地球環境保全のためには、解消していく必要があります。
価格の低減
バイオマスプラスチックの価格は、従来の石油由来のプラスチックに比べると1.5~5倍。この値段の高さが、普及の大きなネックとなっています。従来のプラスチックに価格面で追いつくためには、大規模な設備で大量生産を行う必要がありますが、明確な需要が見込めないためにバイオマスプラスチックのメーカーは、大規模な設備投資に踏み切れずにいるといいます。
先述の「プラスチック資源循環戦略」では、「需要喚起策」や「可燃ごみ指定袋などへのバイオマスプラスチック使用」が盛り込まれていますが、タイで実施されている税制優遇策のように、バイオマスプラスチックのメーカーに対する優遇策も期待されます。
なお、2022年1月現在、日本におけるバイオマスプラスチックの製造は行われておらず、ブラジルを中心とする海外からの輸入品に100%依存している状況です。輸入の際にかかる関税については、2019年3月までは2%の税率でかかっていましたが、2019年4月に暫定措置としてバイオポリエチレン(バイオPE)ついては輸入関税が撤廃されました。
原材料の確保
バイオマスプラスチックを製造するためには、植物原料が必要で、原料不足となる恐れがあります。たとえば、バイオポリエチレン(バイオPE)は、サトウキビから砂糖を作る際に副生する廃糖蜜を原料とするので、砂糖が作られる際に原料が採れますが、トウモロコシの馬歯種コーン(デントコーン)を原料とするポリ乳酸(PLA)などの場合、バイオマスプラスチック製造のために栽培する必要があるほか、コーンスターチや飼料、バイオエタノールの原料でもあるため、競合します。
将来的に世界規模での食料不足が予測される中、既存の農地が過度の化学肥料の使用により土壌がやせて栽培できなくなる恐れも懸念されています。農地が不足した場合、食料用の栽培が優先されることになるでしょう。
また、バイオマスプラスチックの製造過程でエネルギーとして石油燃料を使用するため、カーボンニュートラルとはいえないという見方もあります。
生分解性ではないバイオマスプラスチックが存在する
バイオマスプラスチックと聞くと環境に優しい良いイメージが沸きますが、「バイオマスプラスチックの種類」でご紹介した通り、バイオマスプラスチックには、生分解性のものと非生分解性のものがあります。つまり、自然環境に還る素材であるとは限らないということです。
バイオポリエチレンテレフタレート(バイオPET)などの非生分解性のものについては、違う素材が混ざっているため従来のプラスチック容器と同様にリサイクルすることもできません。焼却する以外に処理方法がなく、処理の過程でCO2を発生させてしまうことになります。
海中では分解されにくい
生分解性のバイオマスプラスチックは、地上での分解が想定されており、海中では分解されにくいのが難点です。今後は、海洋生分解性プラスチックの研究が必要となるでしょう。日本では、化学メーカーである株式会社カネカが海洋生分解性プラスチック「Green Planet(R)」を開発しており、30度の水温(海水)で6ヵ月以内に90%以上が分解されるといいます。ただ、Green Planetの開発には20~30年前もの月日がかかっているといい、海洋生分解性プラスチックの研究は長い目で見る必要がありそうです。
まとめ
環境負荷の高い従来のプラスチックの代替素材として、期待が集まるバイオマスプラスチックですが、すべてのバイオマスプラスチックが生分解性を持つわけではなく、海洋性生分解性も視野に入れると、まだまだ研究開発の中途であるともいえます。
今後の普及や地球環境保全のためには、価格や原料の確保など、これから解決していくべき課題も多いです。
ほかの手段とも併用しつつ、地球温暖化対策やSDGsの実現のために、ビジネスでもプライベートでも、うまく取り入れて活用していく必要があるでしょう。
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